2017年9月アーカイブ

最近の気候温暖化が南のチョウを北に向かわせているとしても,それらの分布域を決定する自然あるいは人為の要因は複雑に絡み合っていて分布拡大の過程は単純なものではないらしい.

そもそも生物相の移り変わりについて,その全容を確かな根拠にもとづいて捉えることは難しい.Doi et al (2017 Ecol Res)は,地球規模の気候変動が生物の分布や生活史に与える影響を理解するには,大きな時空間スケールで生物の個体数・分布・多様性を扱うマクロ生態学(山浦・天野 2010 日本生態学会誌)の視点が重要であると論じているが,そのために必要となるデータを得ることは容易くない.だが,チョウ類は調査・観察が比較的容易であり,各地域の愛好者や研究者が全国にネットワークを広げているために昆虫のなかでは格段に濃密な時空間データが蓄積されており,各種の生息状態の変化について根拠にもとづく慎重な議論が積み重ねられてきた.本書は,それらを取りまとめて広く世に問う意欲的な試みであり,チョウ類の近年の分布拡大に焦点を絞っている.

本書は,総論(1),3つの章I~III,および総論②から構成される.総論(1)では,編者の井上がチョウ類の分布拡大の諸要因について検討し,気候温暖化のほかに,食草ごとの移動や土地利用の変化による生息適地や食草の分布拡大,放チョウ,あるいは食性の進化などが複合的に関わっていることを論じている.第I章では特に注目される11種のチョウについて分布拡大の経緯と現状が,第II章では北海道から九州・南西諸島までの10地域におけるチョウ類の分布拡大の様相が,それぞれ豊富な文献データにもとづいて論述されている.第III章では,「様々な視点からチョウの分布拡大を捉える」と題して,熱帯アジアや欧米における分布拡大の様相,種内変異や人為要因の重要性,数値計算による分布予測,分布拡大による近縁種間の繁殖干渉や天敵寄生蜂の急速な適応進化の可能性,外来種駆除の試み,放チョウの問題,あるいは外来植物を利用した希少種の分布拡大について,11名の研究者がそれぞれ興味深い研究事例を紹介している.最後に,総論(2)において石井は日本産のチョウ類245種について分布型や生活史特性と分布変化の関連性を詳細に分析し,分布を拡大する31種のチョウの多くが北に向けて分布を広げつつある南方系の広域分布種であること,一方で分布拡大や勢力拡大を示す種よりもレッドリスト掲載種(分布域が縮小する傾向にある種)の方が種数は多く,後者には日華系や北方系の1化性・草本食種が多いことを指摘している.

本書に紹介されている多くの事例や論説は,顕在化しつつある気候変動や人為的移入に加えて,あるいはそれ以上に,人為的な食草の導入や分布拡大あるいは生息環境の改変がチョウ類の分布拡大に大きな影響を与えていること,その背景には高度経済成長期以降の農山村の変貌や市街地緑地の変遷があることを教えてくれる.例えば,各地で分布域を拡大するウスバシロチョウ(ウスバアゲハ)は耕作放棄地に育つムラサキケマンを食草としており,コムラサキやホシミスジは都市部の緑地に生息域を広げている.また,ムラサキツバメは近年急速に東進し,北上している暖地種だが,緑化樹として植栽された食草のマテバシイが大木になって刈り込みされるようになり,その補償作用によって大量の新芽が供給されることが分布拡大を助ける一因となっている可能性がある.

もとより本学会会員のチョウ学進歩への貢献は顕著である.例えば,北方に分布を拡大している日本産のチョウ類のなかで気候温暖化がその主要因であることが生理学的に裏付けられているのは今のところナガサキアゲハだけであるが,その研究は本学会会誌に発表されている(Yoshio & Ishii 1998, 2001 Appl Entomol Zool).分布を拡大するチョウ類には,オオモンシロチョウ,カラフトセセリ(遺伝子の解析と輸入統計の調査から,前世紀末に北米から輸入されたイネ科牧草とともに移入されたと考えられている),クロマダラソテツシジミ,ナガサキアゲハ,ツマグロヒョウモンなど,栽培植物を加害するものも少なくない.しかしながら,むしろ,多くの農林業害虫が分布域を拡大しつつあることを考えると,本書に紹介されているチョウ類の分布拡大に関する諸考察は,そうした害虫あるいは侵略的外来種の調査研究に際して我々に様々な示唆を与えてくれるものに違いない.

私自身は本書をとおして,少年時代に親しんだ身近なチョウ類が生息環境を大胆に変えながらも逞しく生きている姿にふれてワクワクした.ありし日の昆虫少年・少女にも一読をお薦めしたい一冊である.

日時: 平成29年9月25日(月) 13:00~17:00

場所: 日本学術会議講堂 (東京メトロ千代田線乃木坂駅5出口徒歩1分)

開催趣旨:

本年8月20日にわが国は「生物多様性条約下での遺伝資源の取得の機会及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」の締約国に加盟し、国内措置 (ABS指針)が施行された。

日本学術会議では、提言「学術研究の円滑な推進のための名古屋議定書批准に伴う措置について」を昨年12月に公表し、政府に対して名古屋議定書の早期締約を要望し、また、政府、大学・研究機関等に遺伝資源の持続的利用と利益配分に関わる問題点等の周知徹底、国内支援体制の整備等について要望してきた。本シンポジウムでは、名古屋議定書下での海外遺伝資源研究における留意点やリスク管理、国内措置等について議論する。

 

プログラム:

(総合司会)廣野育生(日本学術会議特任連携会員、東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科教授) 13:00 開会の挨拶 奥野員敏(日本学術会議連携会員、元筑波大学生命環境系教授) 13:05 挨拶 長野哲雄(日本学術会議第二部会員、東京大学名誉教授、東京大学創薬機構客員教授) 講演 13:10 提言「学術研究の円滑な推進のための名古屋議定書批准に伴う措置について」の概要説明    三輪清志(日本学術会議連携会員、味の素株式会社客員フェロー) 13:30 名古屋議定書締約国加入に対応する国内措置について    野田浩絵(文部科学省研究振興局ライフサイエンス課調整官) 13:50 海外遺伝資源を利用した学術研究におけるリスク管理について    鈴木睦昭(日本学術会議特任連携会員、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所ABS学術対策チーム) 14:10 国内措置に関わる大学での体制整備の現状と遺伝資源取得に関する今後の課題 設楽愛子(東京海洋大学産学・地域連携推進機構URA) 14:30 狩野幹人(三重大学地域イノベーション推進機構知的財産統括室准教授) 14:50 深見克哉(九州大学有体物管理センター教授)   --休憩 (1510-1520)-- 15:20 SATREPSにおけるABS対応を巡る現状と課題    小平憲祐(国立研究開発法人科学技術振興機構国際SATREPSグループ調査員) 15:40 緊急報告:COP13におけるデジタル配列情報に関する論議とCOP14への対応    鈴木睦昭(前出)    小原雄治(日本学術会議連携会員、情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンター長) 16:10質疑応答   司会:奥野員敏(前出)、甲斐知惠子(日本学術会議第二部会員、東京大学医科学研究所教授) 16:50 閉会の挨拶 大杉立(日本学術会議第二部会員、東京農業大学客員教授)

主催: 日本学術会議農学委員会・食料科学委員会合同農学分野における名古屋議定書関連検討分科会、日本学術会議基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会合同遺伝資源分科会

参加費: 無料

申し込みサイト: https://goo.gl/forms/obGb6ZvcnOtScqWg2 申込に関する連絡先: 国立遺伝学研究所:ABS学術対策チーム(abs(at)nig.ac.jp) 内容に関する連絡先: 日本学術会議会員:大杉立(r.ohsugi(at)gmail.com) (@は(at)に変えてあります) ポスターダウンロード: http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/251-s-2-1.pdf

2018年前期(1~6月)の国際交流基金による派遣候補者の応募締め切りが9月29日(金)に迫っています。ふるって応募下さい。詳細は、最新の会誌会報欄をご覧下さい。

本年11月13日(月)に、星陵会館(東京都千代田区永田町)で農林水産省の委託プロジェクト研究「ゲノム情報等を活用した薬剤抵抗性管理技術の開発」の成果発表を兼ねたシンポジウムを開催いたします。詳細は、下記URLを御覧ください。参加には事前登録が必要ですので、あわせて下記URLからお申し込みください。皆様のご来場をお待ちしております。

  • 共催: 農林水産省、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、農林害虫防除研究会
  • 日時: 平成29年11月13日(月) 10:00~16:45 (受付開始9:30)
  • 場所: 星陵会館ホール (東京都千代田区永田町 2-16-2)
  • 参加費: 無料ですが上記URLから事前登録が必要です。会場定員は400名

一般社団法人日本応用動物昆虫学会は、モモ、ウメ、サクラ等のバラ科樹木を加害する侵入害虫クビアカツヤカミキリの防除対策に関する要望書を下記のとおり農林水産省、国土交通省および環境省へ提出いたしましたので、会員の皆様へご報告いたします。

1. 日時
環境省: 2017年8月30日(水) 午後1:00~1:30
農林水産省: 同日午後2:00~2:30
国土交通省: 同日午後3:00~3:30
2. 対応者
環境省: 同省自然環境局外来生物対策室長
農林水産省: 同省消費・安全局植物防疫課長および課長補佐
国土交通省: 同省都市局公園緑地・景観課緑地環境室 緑地環境技術係長
3. 訪問者
矢野会長、髙梨監事、德丸理事 3名
4. 概要
  • 省庁間連携による侵入害虫クビアカツヤカミキリの防除対策に関する要望書について説明。
  • 具体的には、1) 省庁間連携によるクビアカツヤカミキリに対する緊急且つ継続的な防除ならびに国内での分布拡大防止策の実施、2) クビアカツヤカミキリに対する防除技術開発の推進を要望。
  • 3省とも丁寧にご対応いただき、要望書の内容についてもご理解いただいた。

茨城大学農学部地域総合農学領域(農薬学専門分野)教員公募要項

今回の公募は、文部科学省「平成29年度国立大学 改革強化推進補助金(国立大学若手人材支援事業)」(平成29年11月採択予定)により、中長期的な若手研究者の採用拡大を促進しようとするため、例えば大学院修了後の経過年数が少ないような、なるべく若い研究者を採用するものであり、テニュアトラック制での雇用を予定しております。採用にあたっては、事業の採択が文部科学省で決定されることが前提条件となります。本公募による採用者は、茨城大学農学部に勤務し、公募分野の教育と研究に従事していただきます。(※テニュアトラック制とは、公正で透明性の高い選考により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付の雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組みです。)

1. 募集人員:
助教 1名
2. 教育研究分野:
農薬学
3. 授業担当科目:
学部: 農薬学、総合防除論、応用動物昆虫学実験(分担)、ゼミナール、卒業論文の指導
大学院: 農薬学特論、Advanced Plant Protection(分担)、修士論文・演習の指導
その他、基盤教育科目、学生実験(生物、化学)等を分担していただきます。
4. 応募資格:
  • (1) 平成30年3月31日時点で40歳未満の者
    ※ 文部科学省「平成29年度 国立大学改革強化推進補助金(国立大学若手人材支援事業)」事業のため、雇用対策法施行規則第1条の3第1項例外事由第3号二に 該当、同事業の年齢制約に基づき、応募条件を設定しています。詳細は、本学人事労務課(TEL: 029-228-8013)ま でお問い合わせください。
  • (2) 農薬学、特に殺虫剤に関する研究業績を有する方
  • (3) 博士の学位を有するまたは平成30年3月31日までに取得見込みの方
  • (4) 国立大学法人茨城大学就業規則第4条の2[欠格事項]に該当しない方
5. 任期
平成29年12月1日~平成34年11月30日(テニュアトラック)
  • (1) 平成29年12月1日~平成32年3月31日: 教育研究振興教員(任期付・年俸制)
    ※ 教育研究振興教員の期間の契約期間は1年度毎に更新となり、業務の実施状況、勤務評価等により更新しない場合もあります。また、この期間は、テニュアトラック期間に含まれます。
  • (2) 平成32年4月1日~平成34年11月30日: テニュアトラック教員(任期付・年俸制)
    ※ 任期の定めのないテニュアとなるためには、雇用から5年以内に、中間審査及びテニュア獲得に係る審査に合格する必要があります。
6. 待遇・賃金等
  • (1) 平成29年12月1日~平成32年3月31日: 教育研究振興教員(任期付・年俸制)
    国立大学法人茨城大学教育研究振興教員等就業規則及び国立大学法人茨城大学教職員賃金規程により ます。
  • (2) 平成32年4月1日~平成34年11月30日: 農学部テニュアトラック教員(任期付・年俸制)
    国立大学法人茨城大学就業規則、国立大学法人茨城大学教員のテニュアトラック制に関する規定及び国立大学 法人茨城大学教職員賃金規程によります。
7. 勤務地:
国立大学法人茨城大学農学部(茨城県稲敷郡阿見町中央 3-21-1)
8. 着任時期:
平成29年12月1日以降のなるべく早い時期
9. 提出書類:
  • (1) 履歴書(写真貼付、書式自由、市販用紙で可、連絡先には電話番号と E-mailアドレスを記入)
  • (2) 研究業績リスト(学位論文(修士及び博士、学位授与機関、学位記番号を明記)、原著論文(査読制度の有無および責任著者を明記)、著書、総説等、国際会議論文、および特許に分類、著者名はすべて記入してください。)
  • (3) 主要学術論文3編以内(コピー可)
  • (4) 外部資金獲 得実績(科研費、共同研究、受託研究、その他に分類)
  • (5) 教育実績 (担当授業科目、非常勤講師履歴、学生指導履歴に分類)
  • (6) これまでの教育研究概要(1,000字程度)
  • (7) 赴任後の教育研究に関する抱負(1,000字程度)
なお、(1)と(3)を除く書類 については、ファイルを収めた電子媒体(CDもしくはDVD)をあわせてご提出ください。
10. 応募書類の提出期限:
2017年9月29日(金曜日)必着
封筒の表に「教員応募書類在中」と朱書きし、簡易書留で郵送すること。
11. 問い合わせ・書類提出先:
〒300-0393
茨城県稲敷郡阿見町中央 3-21-1
茨城大学農学部 地域総合農学領域
「農薬学」人事選考委員会
委員長 毛利 栄征 (Tel: 029-888-8598, e-mail: yoshiyuki.mohri.office(at)vc.ibaraki.ac.jp (@は(at)に変えてあります)
12. その他:
(1) 男女共同参画社会基本法の趣旨に則り、女性の積極的な応募を歓迎いたします。また、教員採用にあたり業績等(研究業績、教育業績、社会的貢献、能力、資格等)の評価が同等と認められた場合には、女性を積極的に採用します。
(2) 選考の過程で候補者の方には面接等をお願いしますが、その際の旅費は自己負担といたします。
(3) 本公募に関連して提出された個人情報は、国立大学法人茨城大学個人情報の保護および管理規定に基づき本選考の目的に限って使用し、責任もって廃棄いたします。
(4) 茨城大学農学部は平成29年度に改組を行いましたが、学年 進行中は旧学科の授業担当等をお願いすることがあります。
(5) 英語力を客観的に評価できる書類等があればご提出ください。

(公募情報) 茨城大学ウェブサイト

教員公募のお知らせ(九州大学大学院農学研究院)

九州大学大学院農学研究院では天敵微生物学分野を担当する教授1名(任期なし)を公募いたします。応募締め切りは2017年10月31日です。詳細は以下のホームページ 公募の欄もしくはJREC-INに掲載の公募要領をご覧下さい。

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