応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

日本農業害虫大事典

(2004年6月 1日公開)

  • 梅谷献二・岡田利承 編
  • 出版: 全国農村教育協会
  • ISBN: 4-88137-103-7 C3545
  • 2004年、B5判、1,203頁、定価50,000円

構想から10余年、B5判、1,203ページ、重量約3kg、20世紀応用昆虫学の集大成とも言える文字通り重厚な事典が2003年5月に上梓された。本書は同じ全農教から1998年に出版された「日本植物病害大事典」の姉妹書として企画されたものである。そのためか、サイズ、ページ数、価格がほぼ同一であるばかりでなく、ともに作物別に病害虫が記述されるなど、体裁・内容ともきわめて類似した作りになっている。装丁は「害虫」が青、「病害」が赤。書棚にこの2冊が並べば、国内の植物保護に関するデータバンクとして、多くの疑問に答えてくれるだろう。

本書は2部構成で、巻末には収録害虫の分類表と索引が配置されている。収録された作物と害虫は本学会編集の「農林有害動物・昆虫名鑑」(1987)(通称「名鑑」、現在改訂作業中)に準拠しているが、害虫の範囲を有害無脊椎動物とし、脊椎動物は含まれていない。また、林木・養蚕などの項目も除外されている。第1部・作物別害虫解説はイネ、畑作物、野菜、果樹、特用作物、牧草・飼料作物、花卉、庭木、シバ類、貯穀・貯蔵植物性食品に区分し、約1,800種について延べ約5,000項目にわたり約4,500枚のカラー写真とともに個別解説されている。この1ページ当り4-5枚配置されたカラー写真によって、本書は視覚に訴える「読み物」としても十分楽しめる。第2部・主要害虫群概説は各害虫群の形態・分類・加害様式・生態に関する解説と主要な害虫種を含む科の説明が加えられている。概説とはいえ、専門家17名の分担執筆による総計110ページ以上にわたる総説であり、入門教科書を凌駕する内容量がある。

本書の使用場面を想定すると、検索図鑑ではないので、種名が判明したもの、あるいは近縁種について、害虫名索引を利用して解説ページにたどり着くことが多いと思われる。そこで問題になるのが、複数の作物を加害する害虫である。広食性害虫になると数十カ所にまたがって解説されていることも珍しくない。そのため、意図する作物・害虫に関する解説ページを索引から探し出すには時間と根気が必要になる。さらには、広食性害虫の作物別解説を同一担当者が執筆している場合、部分的には全く同じ表現が繰り返され、同じ写真が使われていることもある。作物別掲載方針は、「日本植物病害大事典」(植物病害の寄主特異性と統一的な命名システムにより全作物について全病害の登載を実現)との一貫性を重視したためと思われるが、限られた紙数で網羅的記述を目指す大事典ならば、冗長性は極力排除されるべきであった。植物病害にはない広食性害虫に対し、画一的な作物別の記述方法には、やはり無理があったと言わざるを得ない。とは言え、作物ごとの害虫を概観するには作物別編集が最適であり、広食性害虫の取り扱いは、収録害虫の取捨選択と同様に、編集者を最後まで悩ませたことであろう。

発刊後の図鑑・事典類が避けて通れない問題に、誤植の訂正と内容の更新がある。本書も例外でなく、正誤表が付されているが、それ以外にも、写真の裏焼きや明らかな誤植が散見される。大事典であるだけに、未発見の誤植も相当な数になるだろう。そこで、出版社のウェブサイトを通して、誤植に関する情報を読者に求め、それをHP上で公開してほしいものである。同様に、新害虫の出現など内容の追加・変更に関しても、HP上で随時公開すれば、本書はいつまでも色あせることがないだろう。今後は、当然のことながら、書籍全体の電子媒体化が期待される。

個人で購入するには、価格面からも、やや「重すぎる」が、各研究機関には少なくとも1冊常備されるべき記念碑的事典である。本書の内容見本については、下記URLを参照されたい。

(中央農業総合研究センター 守屋成一)