応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

学会長 小野 正人(2021~2022年度)

会長写真

玉川大学 学術研究所/農学部昆虫科学領域/大学院農学研究科/

  • 1988 年3月に玉川大学大学院農学研究科博士課程後期修了(農学博士), 2005年4月より同大学教授.その間,サイモンフレーザー大学理学部 客員研究員 (1998~1999).2013 年4月から玉川大学 農学部長/大学院農学研究科長/農産研究センター長,
  • 2019 年4月からは,玉川大学 学術研究所 所長
  • 2013 年:日本昆虫学会 副会長(~2014)
  • 2014 年:日本学術会議連携会員
  • 2017 年:日本学術会議 応用昆虫学分科会 委員長
  • 2020 年:日本昆虫科学連合 副代表
  • 2020 年:第 27 回 国際昆虫学会議 組織委員会 委員長
  • 井上研究奨励賞(1990)/環境賞 優良賞(1996)/
  • 日本応用動物昆虫学会 学会賞(2004)

      このたび(2021-2022期),一般社団法人 日本応用動物昆虫学会の会長・代表理事に就任いたしました.任期となる2年間を理事会,学会誌編集委員会,各種委員会,各地区からの選任者からなる代議員会メンバーらとチーム一丸となり,当学会の運営に微力を尽くしたいと存じます.運営チームの活動する意義,創出すべき成果は,全て約1,700名の会員ならびに関係者の有益な学術交流に資するものでありたいとの方針を念頭に事業展開を試みる所存ですので,どうぞ宜しくお願い申し上げます.

      当学会が法人格を得てから早5年目を迎えます.その定款には,法人の目的として「応用昆虫学及び応用動物学の進歩普及をはかること」と端的に記されています.そして,その目的を達成するために行う事業として,次の5項目が挙げられています.

      • (1)会誌及びその他出版物の発行
      • (2)大会等の開催
      • (3)内外における関係諸機関,諸学会との連絡
      • (4)各賞の授与
      • (5)その他必要と認められる事業

      以上の事業執行について,主たる責任をもつ理事会は,様々な機関で功績を挙げられている主に中堅から若手の研究者で構成され,理事,監事そして事務幹事にはお一人ずつ女性研究者に参画いただいています.事務長を含む経験豊富な理事3名,学会誌編集委員長,事務幹事1名が前期から留任され,柔軟で多様な視点を備えたチームとして,昨今のCOVID-19禍のような不測の事態の中でも,状況に応じて最適な意思決定が必要なタイミングで迅速にできる布陣が整ったと感じております.

      学会の諸事業の中でもっとも重要なものの1つとして,学会誌の刊行があります.英文誌「Applied Entomology and Zoology」と和文誌「日本応用動物昆虫学会誌」ともに,編集委員長を中心に編集委員会の各メンバーが努力を重ね,その認知度の向上やそれぞれの会誌の目的に応じて内容のさらなる充実を目指していきます.

      さて,急速に進んできたグローバリゼーションは様々な面で国際協力を促しましたが,人と物資だけでなく新型コロナウイルスも拡散してしまい,そのパンデミックがグローバリゼーションそのものを止めてしまうという皮肉な状況が続いています.COVID-19禍は,学会の果たすべき大きな役割である会員間の学術交流の場としての大会運営にも多大なる影響を及ぼしています.そのような状況の中でホストを担って下さる機関と英知を出し合いオンラインとオンサイトをブレンド運営するなど,よりよい大会の形態となるように思料しています.一方,世界的にワクチンの普及が進んでおり,近い将来必ずや人類がそのパンデミックを乗り越える時がきます.その時には停滞していた活動が堰を切ったように溢れだし,会員同士の語らいの時空間の確保,開催地の光を見る文字通りの観光にも大きな弾みとなることでしょう.

      前期(松村正哉会長)の掲げた大きな目標の1つに2024年に開催予定の第27回国際昆虫学会議(International Congress of Entomology: ICE)の日本招致がありました.ICE2024の担当理事職(松浦健二会員)を設け,日本昆虫科学連合(代表:志賀向子会員)の中に置かれた招致委員会(委員長:沼田英治会員)と協働しながら活動を続け,見事に京都開催が決定いたしました.テーマは「New Discoveries through Consilience」です.1980年にアジアで初の開催地として京都で行われて以来,実に44年ぶりとなる大きな事業となります.現在,連合の中に第27回国際昆虫学会議組織委員会が構成され,私が委員長を務めさせていただいております.当学会としては,ICE2024,KYOTOが日本の昆虫学のプレゼンスを国際的に高め,会員の皆様の有意義な学術交流の場となるように日本学術会議農学委員会応用昆虫学分科会など関係諸機関と協力しながら鋭意努めてまいる所存です.

      学会大会で英語によるプレゼンテーションの表彰制度(Best English Presentation Award)を設けて,主に院生・PDなど若手の研究者に国際会議への参加に対するモチベーションを高めてもらう効果を期待して試行を続けています.日本の英語教育は大学入試の手段のような側面があったことも否めませんが,本来の目的は国際社会における外国人との相互理解の手段の修得であり,時には交渉を勝ち取る鋭い英語力が求められようかと思います.英語を母国語としない国籍の者同士が英語で交流しあう世界共通語の英語(English as a Lingua Franca: ELF)機能が必要かと思います.この表彰制度が魅力あるものとして育ち,ICE2024,KYOTOで多くの若手会員が口頭発表に挑戦し,各々の光り輝く夢の扉へ続く道筋への「気付き」につながることを期待しています.

      私事になりますが,大学2年生の春に初めて当学会大会に参加させていただき,早41年が過ぎようとしています.また,その年(1980年)の夏には国立京都国際会館で開催された第16回国際昆虫学会議にも参加する機会を得ました.今はもう故人となられた多くの著名な国内外の研究者が,片言英語しか話すことのできない日本人学生に向き合ってくれる.その時,今まで触れたことがない清々しい風に包まれたような感覚になったのを記憶しています.当時の指導教員に勧められての2つの大会への参加でしたが,もし言葉で教えられていただけであれば,本当の意味を理解できなかったかもしれないと当時を振り返ります.学会の機能として会員に対する様々な具体的な報酬の提供も期待されるかと思われますが,「物的報酬」だけではなく目に見えない「感情報酬」も包括されていることが重要ではないかと感じられます.私もこの40年以上に亘る日本応用動物昆虫学会との関わりの中で,様々な研究者とのかけがえのない出会いがあり,得難い経験をさせてもらい感謝に堪えません.学会という属性にはこれで完成という形はありません.激しい時代の潮流の中で価値観は常に変化しており,その時々の最適解に近づけるよう絶えず模索し続けることは執行部の宿命ではないかと思います.その中で,日本応用動物昆虫学会の会員の皆様が学会に帰属することへの魅力を感じ,エンゲージメントを高めていただける施策や想いが組み込まれているか,を基準に皆で考えながら学会運営にあたり,負託に応えていきたいと念じています.

      21世紀に私たちが抱える様々な課題に「持続可能な食料生産」が挙げられます.2050年までに世界人口(Global population)は,2010年に比して約1.3倍の100億人に迫り,食料需要率は約1.7倍に増加するとの試算があります.いわゆる「2050年問題」の回避を考えた時に,地球環境の保全と食料増産の両立を念頭におくことは必須です。その中にあって,食料の生産にマイナスとなる昆虫、ダニ、センチュウなど多様な動物の加害を多角的にコントロールし,一方でハナバチ類などのポリネータ―や天敵類など益虫のもつプラスの機能を伸ばす研究を行い,それらの成果の社会実装化を進める挑戦は時節を得たものと言えるでしょう.そういった意味で,日本応用動物昆虫学会での会員一人ひとりの小さな取り組みは,国連の掲げる大きな持続可能な発展目標(Sustainable Development Goals: SDGs)に合致し,さらに内閣府の示すSociety5.0の中で新たな社会経済システムを安全・安心で盤石なものとする上で欠くことができない「食料の持続的確保」に資するものです。

      結びにあたり,法人格をもつ学会として,常に農学の「地球と人類そして全ての生命との共生に関わっていく」という使命を意識しながら社会に貢献していく姿を発出してきたいと念じておりますので,何卒ご支援,ご協力の程を宜しくお願い申し上げます.