応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

【応動昆 お知らせメール】 003号

(2004年6月28日公開)

日本応用動物昆虫学会会員の皆さまへ

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 「お知らせメール」 2004/06/28
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■■ 目次 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■1 会員からの情報提供 -岡山大学昆虫学土曜セミナー-
■2 会員からの情報提供 -中央農研虫害防除部セミナー-
■3 会員からの情報提供 新刊紹介「線虫学実験法」

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■1 会員からの情報提供 -岡山大学昆虫学土曜セミナー-

 タイトル:ショウジョウバエをもちいた概日時計機構の分子メカニズムの解析
 講演者:松本顕(九州大学 大学教育センター)
 日時:2004年7月17日(土)14:00~17:00
 場所:岡山大学農学部第1講義室(1号館南側1階)
 
 尚詳しくはHPをご覧ください。
 http://www.agr.okayama-u.ac.jp/LIPM/seminar.html
 
                         (岡山大 中筋房夫)

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■2 会員からの情報提供 -中央農研虫害防除部セミナー-

 中央農研 虫害防除部では以下の通りセミナーを開催いたします。
 今回は、大阪市大で学位をとられ4月から中央農研で仕事をされている
 橘真一郎さんと、6月に九州沖縄農業研究センターからJIRCASに移って
 こられた佐野善一さんのお2人にお話をしていただきます。
 
 みなさま多数のご参加をお待ちしております。
 
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 第28回虫害防除部セミナー
 
 日時: 2004年6月30日(水) 15時から
 場所: 茨城県つくば市 観音台3-1-1
     中央農業総合研究センターA地区4階 419号室(会議室)
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 ヒロズキンバエ幼虫休眠の環境による制御
 橘真一郎(虫害防除システム研究室・非常勤研究員)
 
 多くの昆虫は生殖や成長に適さない季節を休眠という特別な生理状態に入る
 ことで生き延びている。そしてこれらの昆虫の多くは休眠にいつ入り、そし
 ていつ終わらせるのかということを一年を通して変化するさまざまな環境要
 因によって決めている。今回のセミナーでは、ハエ目クロバエ科に属するヒ
 ロズキンバエの幼虫休眠に環境要因(光周期・温度)がどのように関わって
 いるのかについて紹介したい。
 [休眠の誘導・維持]休眠の誘導には休眠に入る幼虫(子世代)自身とその
 幼虫を産んだ親世代の二世代に渡って経験した光周期と温度が影響していた。
 さらに、光周期と温度は休眠に入った後の休眠の持続期間にも影響をあたえ
 ていることがわかった。また、親世代としては、メス個体が成虫期に経験し
 た光周期と温度のみが、子世代の休眠の誘導に影響を与えていることがわ
 かった。
 [休眠の終了]本種の休眠は環境変化がなくても日数が経過すると自発的に
 終了したが、その場合休眠期間は長く、蛹化は不斉一に起こった。しかし低
 温を経験させると、低温経験日数に応じて休眠期間は短縮した。また、高
 温、長日にも休眠期間短縮の効果が見られ、その場合には低温に比べ休眠は
 急速に終了した。
 [休眠・発育と熱ショックタンパク質の発現との関係]休眠の誘導・終了に
 伴って遺伝子の転写レベルでどのような変化が起こっているのかを、休眠と
 の関連性が示唆されている熱ショックタンパク質遺伝子(Hsp)のmRNA量を
 指標として調べた。その結果3種のHsp(Hsp23、Hsp70、Hsp90)において休
 眠との直接の関連性は見られなかったが、蛹の形態形成とHsp90の発現との
 関連性が示された。その結果から休眠幼虫は休眠を終了させる条件に移され
 ると、ごく早い段階で休眠を終えて蛹への発育を再開していることが示唆さ
 れた。
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 サツマイモネコブセンチュウ2期幼虫の生存適応
 佐野善一(JIRCAS)
 
  サツマイモネコブセンチュウは熱帯から暖温帯にかけて広く分布する極め
 て多犯性の植物寄生性線虫である。畑作物や野菜類など多くの作物に加害し、
 深刻な被害を与えている。根の内部に定着して寄生する線虫で、卵から孵化
 して土壌中に生息する2期幼虫のみが感染性ステージである。卵には休眠性
 がないため、温度や水分条件が満たされれば速やかに孵化が進み2期幼虫と
 なる。土壌中の2期幼虫は卵に由来する脂質を中心とした貯蔵養分を消費し
 ながら生存し、植物への寄生のチャンスを窺う。それゆえこのステージの生
 存の良否はこの線虫の永続に直接関係する。また、防除が主にこのステージ
 を対象に行われ、防除対策もこのステージの調査に基づいて立てられること
 から、農業面からも重要である。 2期幼虫の生存には、温度、水分、酸素
 などの環境要因が影響することが実験的に明らかにされている。しかし、土
 壌は粘土や砂といった一次粒子の単なる集合体ではなく、これらが団粒化し
 た非常に複雑な構造をしている。土壌中では線虫は孔隙中において水の被膜
 に被われて生存していると考えられているが、こうした土壌構造は、土壌の
 微視的な環境条件を様々に変化させ、線虫の生存にも大きく影響していると
 考えられる。
  この報告では、サツマイモネコブセンチュウ2期幼虫の土壌中での生存に
 ついて紹介するが、対象とする土壌は国内の畑作地帯に広く分布し、団粒構
 造が発達しやすい黒ぼく土である。この土壌では線虫が増殖しやすく、被害
 が激しく発生する。報告の内容は、一つは団粒構造が2期幼虫の生存に及ぼ
 す影響についてで、2期幼虫は団粒内部に侵入した状態で多量の貯蔵養分を
 保有しながら長期間生存し、外部では死亡は速かった。同じ黒ぼく土でも、
 線虫の侵入が可能な団粒が発達していない土壌では死亡が速やかに進み、団
 粒の発達が悪い砂質土壌でも同じ傾向が見られた。2期幼虫の生存には団粒
 の発達した土壌が適していると考えられる。
  二つ目は土壌中で長期的に生存している2期幼虫の生理活性の変化に関し
 てで、活動性、具体的には幼虫が脱脂綿薄層のフィルターを通過する時間を
 生理活性の指標として解析した。結果としては、孵化直後の2期幼虫は活動
 性が極めて高く、半数の個体がフィルターを通過する時間(MT50)は10数分
 であった。ところが、土壌中で貯蔵養分を保持しながら長期間生存する幼虫
 ではMT50が次第に大きくなり、1ヶ月後には10時間以上となった。貯蔵養分
 の消費が早く、短期間で死亡した一部の幼虫では、活動性が大きく低下する
 ことはなかった。MT50の比較から、長期間生存した幼虫では生理活性が孵
 化直後の数10分の1に低下していることを示唆するが、この現象から、土壌
 中の2期幼虫は生理活性の低い状態となって、貯蔵養分の消費を抑制しなが
 ら長期間生存していくと考えられる。一般の圃場でも長期間生存している2
 期幼虫のMT50は非常に大きく、12~24時間であった。
  団粒構造が発達し、保水性、通気性、土壌空間等に富んでいる黒ぼく土
 は、作物の栽培中は線虫が団粒外部の活動に適した孔隙を利用して旺盛に増
 殖でき、寄主植物のない裸地条件下では団粒内部で生理活性の低い状態と
 なって長期間生存できるため、線虫にとって非常に好適な土壌といえ、この
 ことがこの土壌で作物の被害が発生しやすい主要な要因と考えられる。
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                        (中央農研 石崎摩美)

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■3 会員からの情報提供 新刊紹介「線虫学実験法」

 線虫学実験法
 ISBN-9901897-1-X C3045
 日本線虫学会刊
 B5版、247頁、定価3000円(税込)、送料340円
 
  本書は農作物を加害する土壌有害線虫、松枯れの材線虫、昆虫寄生性線
 虫、Cエレガンス、海産線虫など全ての線虫を対象とし、線虫学の基礎から
 応用まで幅広い実験技術を網羅しています。第1章~5章(合わせて77頁)
 は種の同定に役立つ技術(線虫の一般形態、標本作製技術、光学顕微鏡レベ
 ルの形態観察法、走査電子顕微鏡による観察法、分子生物学的な線虫同定技
 術)を解説しています。第6章(全56頁)と第12章(全18頁)には農作物の
 植物防疫に関わる研究者・技術者に特に有用な実地技術を具体的に解説して
 います:すなわち、土壌試料の採り方、土壌、根、植物体からの線虫分離
 法、植物組織内線虫の調査法、作物被害の査定法、様々な線虫培養・飼養
 法、線虫寄生菌や線虫捕食菌等の線虫関連微生物実験法、線虫防除実験法
 (殺線虫剤、対抗植物、生物農薬の試験法等)などです。執筆には線虫学会
 員の専門研究者が手弁当で当たりました。秘蔵のテクニックを惜しまず公開
 していますし、実体験に基づいていますから、技術の解説は詳しく丁寧で
 す。線虫を調べたいがどうしたら良いのか分からない。そんな悩みを持つ技
 術者に待望の実験書と言えます。目次の詳細は線虫学会のホームページ:
 http://senchug.ac.affrc.go.jp/から閲覧でき、このホームページから購入
 申込みもできます。店頭販売は行っていません。問い合わせは線虫学会:電
 話029-838-8839、FAX 029-838-8837まで。
 
                       (中央農研 水久保隆之)

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■ mailto:odokon-admin@ml.affrc.go.jp まで お願いいたします。  ■
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■ 日本応用動物昆虫学会 website http://odokon.ac.affrc.go.jp/ja/ ■
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