応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

書評 昆虫飛形図鑑―昆虫食の先生、飛んでる虫に魅せられて

(2022年1月21日公開)

基本情報

書誌名:
昆虫飛形図鑑―昆虫食の先生、飛んでる虫に魅せられて
著者・編者:
三橋 淳
出版日:
2021年12月
出版社:
八坂書房
総ページ数:
160
ISBN:
978-4-89694-293-4
定価:
2,200円(税込)

本年卒寿を迎えられる三橋 淳名誉会員は,昆虫の細胞培養に関する多くの業績や,毎日出版文化賞を受賞された「昆虫食文化事典(八坂書房 2012)」に代表される昆虫食に関する数多くの著書を出されているが,今回,昆虫が飛ぶ姿を写真に収めた図鑑を出版された.

これまでもプロの写真家による,自然界でのチョウなどの昆虫の飛翔をとらえた写真集が出版されている.しかし本書は,主にご自宅の簡易スタジオで撮影した14目170種にわたる昆虫の飛ぶ姿を中心に掲載している.しかも撮影には高い機材などは用いず,手で持った"コンデジ"による昆虫たちの飛ぶ姿が,様々な角度から映し出されているのだが,十分見応えがある.写真とともに掲載されている昆虫および各写真の解説を眺めてみるのも楽しい.また昆虫の飛び方,飛翔のエネルギー等,昆虫の飛翔にまつわる長文のコラムが読み応えがあり,充実しているのも本書の特徴である.「昆虫学大事典(朝倉書店2003)」を編集された著者の昆虫学者としてのこだわりが,本書を単なる昆虫写真集とは一線を画す内容にしている.また実際の撮影のノウハウについても詳しく書かれており,刺激を受けた読者が追随することも可能である.

狭い空間である簡易スタジオで撮影された本書の飛翔写真は,ギンヤンマの滑空時の姿勢と比べるなどすれば,実際の飛形とはやや異なるものもあるであろう.しかし大小様々な昆虫たちが見せる飛翔の瞬間を切り取った写真を眺めているだけでも興味深く,チョウの仲間やクワガタムシなどの一般ウケする昆虫以外にも,トビイロウンカやコナガなどの害虫種の飛翔を観察できる本書の存在価値は高い.

何年も前から本書の企画を楽しそうに語られていた著者の昆虫愛が詰まった一冊であり,多くの会員が手に取ってみられることをお勧めしたい.

野村昌史(千葉大学園芸学部)