応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

フェロモン利用の害虫防除 - 基礎から失敗しない使い方まで

(2006年2月20日公開)

  • 小川欽也/ピーター・ウィツガル 共著
  • 出版: 農山漁村文化協会
  • ISBN: ISBN4-540-04359-5
  • 2005年、A5判、144頁、定価1,800円

この本はフェロモン利用の害虫防除に関する最も実践的な解説書である。著者の一人である小川氏は、現在世界的なフェロモンメーカーとなった信越化学工業(株)の技術顧問であるが、1982年からフェロモン製剤の開発にたずさわり、その実用的な使用法を編み出した人である。

全体は3章からなる。第1章はスエーデン農業大学化学生態学教授ウィツガル氏によるフェロモンに関する基礎的情報であり、昆虫の情報伝達物質としてのフェロモンの性質とその利用について、これからフェロモンを使おうとする人にとっては欠かせない知識を提供するものである。

第2章はフェロモンを使用して害虫防除をする際のポイントであり、小川氏の長年の現場での体験にもとづくオリジナルなものである。それは、(1)フェロモン剤は交信撹乱法によってのみ利用できる、(2)害虫密度の低い、早い時期からの設置が必要である、(3)広い面積での利用が必須である、(4)対象害虫以外の害虫に対する在来天敵の活用が不可欠である、(5)風速や地形などに合わせて設置量を調整する必要がある、(6)有効期間が長く、均一放出性の高いフェロモン製剤を選ぶことなどである。特に(4)の在来天敵の利用は大切であるが、日本では消費者の外観被害基準が厳しく、天敵の餌となる低密度の害虫の存在を許さないことが問題である。また(3)の広施用面積は日本ではかなりの努力が必要である。

第3章はフェロモン製剤が開発されるまでの、小川氏の苦闘の跡を述べており感動的である。将来性が未知であったフェロモン製剤の開発は、はじめ社内でも反対する人がいた。しかし氏は、アメリカのワタの害虫であるワタアカミムシのフェロモン原体の安価な合成に成功し、これをアメリカに売り込む過程で、当時アメリカで使われていた飛行機から散布するタイプの製剤の効果が低いのに対して、B-ROPE(ピービーロープ)という作物に手で取り付けるチューブタイプの製剤を開発し、その設置法の改良によって高い効果をあげた。そして、これをアメリカ、エジプト、イスラエルなど世界的なワタ産地に普及させた。これが基礎となって信越化学は、その他の害虫についても世界的なフェロモンメーカーへと発展していく。筆者も、かつてアメリカ北西部のリンゴ害虫のコドリンガに対するフェロモン防除を見学する機会があったが、たしかに信越化学製のフェロモンロープが取り付けられていた。その後我が国でも、高知県のネギ害虫であるシロイチモジヨトウや果樹害虫を中心に、実用的な大面積のフェロモン剤利用が拡大しつつあることは、小川氏の先見の明によるところが大きいと思う。

最後に、小川氏はフェロモンに対する基礎研究の一層の必要性を説いている。特に交信撹乱のメカニズムが未解明であることや、交尾阻害率が高いのに防除効果が上がらない害虫のあることなどがそれである。基礎研究と製剤や防除の現場が結びついたとき、フェロモンを使ったIPMの真の発展がもたらされることを、この本は私達に教えてくれているものと思う。

(仙台市 小山重郎)