応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

第302回&303回 昆虫学土曜セミナーのご案内

(2013年5月15日公開)

第302回 昆虫学土曜セミナーのお知らせ
話題: 植物-植食性昆虫の進化群集生態学:緩やかな繋がりから生まれる多様性
講演者: 内海俊介 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・雨龍研究林)
日時: 2013年 5月25日(土) 14:00~17:00
場所: 岡山大学農学部第1講義室(1号館南側1階)

第303回 昆虫学土曜セミナーのお知らせ
話題: 環境保全型水田における多様なクモ類と斑点米カメムシとの関係
講演者: 高田まゆら (帯広畜産大学)
日時: 2013年 6月8日(土) 14:00~17:00
場所: 岡山大学農学部第1講義室(1号館南側1階)

問い合わせ 宮竹貴久 miyatake@cc.okayama-u.ac.jp

以下は講演要旨です。

第302回 
講演者: 内海俊介(北海道大学)
話題: 植物-植食性昆虫の進化群集生態学:緩やかな繋がりから生まれる多様性
要旨:
生物群集の成り立ちを理解するためには、生態と進化の密接な関わり合いを解き明かすことが必要である。そのような統合的な理解を目指す研究領域を指して、「進化群集生態学」というタームもしばしば用いられるようになってきた。この研究領域においては特に、コインの裏表といえるような二つの問いがその根幹をなしている。すなわち、(1)生物の形質変異が、群集の特性を予測するためにどのような重要性を持つか?(2)群集の特性や多種間の相互作用ネットワークが、群集を構成する生物の形質に対する選択圧としてどのように機能するか?という問いである。私は、これまで野外における植物(主にヤナギ)と昆虫の相互作用を対象として、この二つの問いに取り組んできた。植物と昆虫の間の関係については、強固な相互作用に注目した一対一
の共進化関係が関心を集める場合が多いが、実際には一つの植物個体が数十から百の多様な昆虫種によって利用されることは珍しくなく、その防衛戦略の進化に昆虫群集の効果を検出した研究も徐々に蓄積されつつある。本セミナーでは、この見方をさらに掘り下げ、(1)植物の防衛形質における遺伝的変異や表現型可塑性が昆虫群集の特性(種数やネットワーク構造)をどのように決定するか、あるいは空間構造がそのプロセスにいかに影響を及ぼすか、(2)昆虫の遺伝的変異も考慮に入れた遺伝子型×遺伝子型相互作用が群集に与えるインパクト、(3)拡散選択の理論および植物を基盤とした昆虫種間の相互作用ネットワークにおける昆虫(ハムシ)に対する拡散選択の実証研究、について論じる。さらに、群集と進化のフィードバックに関する今後の研究計画や大学研究林の魅力についても紹介したい。

第303回 
講演者: 高田まゆら (帯広畜産大学)
話題: 環境保全型水田における多様なクモ類と斑点米カメムシとの関係
要旨:
宮城県大崎市田尻では、ラムサール条約登録湿地である蕪栗沼及びその周辺水田を中心に多くの農家が冬期湛水、無農薬、無化学肥料などの環境保全型稲作に取り組んでいる。こうした水田は、慣行農法水田に比べさまざまな生物の多様性が増加するが、同時にイネ害虫や雑草による被害が深刻化するという負の側面も持ち合わせている。農薬に頼らないイネ害虫被害防除法の1つとして、害虫の土着天敵を利用することがあげられる。環境保全型水田で増加する生物の中には、土着天敵となりうるクモ類が含まれることから、こうした天敵の増加がイネ害虫の被害を抑制する効果をもたらすことが期待される。本研究では環境保全型水田におけるクモ類のイネ害虫被害抑制効果を検証するため、まず環境保全型水田44枚を対象とした野外パターン調査により斑点米カメムシの密度やその被害の程度とクモ類密度との関係性を調べた。
本調査地の環境保全型水田には多様なクモが生息しており、特にイネの上部にはアシナガグモ属(造網性)が、イネの株元にはコモリグモ科(徘徊性)がそれぞれ優占している。アシナガグモが張る水平円網の被度は著しく高いため、斑点米カメムシが網にかかる光景が頻繁に観察されたが、網が脆弱なことからアカスジはそのまま落下してしまうことが多かった。斑点米カメムシは水田内に侵入後、通常イネの穂付近に生息しているが、アシナガグモの網が斑点米カメムシを落下させることにより、株元付近に生息するコモリグモ類が斑点米カメムシを捕食する可能性が考えられた。そこで、アシナガグモの網がコモリグモによる斑点米カメムシの捕食を促進するという仮説を立て、斑点米カメムシのDNAマーカーを用いたコモリグモの食性分析によりその捕食率を調べた。