新刊紹介「ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか」
(2013年10月25日公開)
「ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか」
トーマス・シーリー著 片岡夏美訳(2013)築地書館 291頁 2800円+税
(ISBN978-4-8067-1462-0)
野生のミツバチの群れにとって、良い餌場と巣孔を見つけることは死活問題である。餌場をみつけたハチが、巣にもどってその方向と距離を独特の尻振りダンスによって仲間に知らせることはよく知られている。この行動の発見者でのちにノーベル賞を受賞したカール・フォン・フリッシュの弟子のマルティン・リンダウアーは、ミツバチが新しい巣孔を発見して仲間に伝えるために、やはり尻振りダンスを行うことを発見した。この本はリンダウアーの弟子、つまりフリッシュの孫弟子にあたるアメリカのミツバチ研究者、トーマス・シーリーが、ミツバチが複数の巣孔候補地の中からどのようにして最良の巣孔を選ぶかについて研究して書いたものである。ミツバチの巣には晩春から初夏にかけて新しい女王が誕生し、古い女王はおよそ1万匹の働き蜂と一緒に巣を離れて、新しい場所に巣孔をみつけて移住する。これを分蜂というが、はじめ分蜂群はもとの巣の近くの木の枝などに密集しぶらさがっている。この群れの中から数百匹の蜂が周囲を探しまわって、巣を営むのに適当な木の空洞などの巣孔候補地を探す。適当な巣孔をみつけた数匹のハチは群れにもどって、独特な尻振りダンスを行うが、この段階ではいくつかのハチがそれぞれみつけた巣孔候補地を主張している。しかし、これが次第にしぼられて、最終的に1つの候補地が決定されると、分蜂群は一斉にその方向に飛んでいってその巣孔の中で新しい巣を営むのである。シーリーはこのハチの群れの意思決定の過程がきわめて民主的であり、人間社会の意思決定においても大いに学ぶべきであるという。ちなみに、この本の原題はHONEYBEE DEMOCRACY(ミツバチの民主主義)である。この本は、行動生物学のすぐれた研究論文として読むことが出来るが、研究過程における豊富なエピソードによって読者がフィールドサイエンスの醍醐味を味わうことが出来る良質の科学読み物でもある。ミツバチと行動生物学に関心のある方々のご一読をおすすめしたい。
(仙台市 小山重郎)