応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

新刊紹介 ダニのはなし ???人間との関わり???

(2016年3月13日公開)

ダニのはなし ???人間との関わり???

                 島野智之・高久 元〔編〕

                 朝倉書店

                 2016.1 発行 A5版 定価(本体3000円+税)

 本書はダニに関する広範な情報をわかりやすく、かつ、生活の中で関わるさまざまな知識を網羅して紹介し、正しい知識が浸透する事を期待し、各分野の専門家25名の分担執筆で刊行したと、まえがきにある。副題で人間との関わりと唱われており、人間中心のダニ学では危惧したが、採集・分類方法からダニとの付合い方までダニ学の全分野について、下記の目次のように各研究分野の最先端が親しみやすく、紹介され、また興味ある研究の話題がトピックスとして散りばめられている。

 目次は、第1章 ダニとは、第2章 病気を起こすダニ① (マダニ)、第3章 病気を起こすダニ② (ツツガムシ)、第4章 病気を起こすダニ③ (イエダニ、ヒゼンダニなど)、第5章 森のダニ① (分解者)、第6章 森のダニ② (虫に乗るダニ)、第7章 水のダニ、第8章 住のダニ、第9章 農業のダニ① (害になるダニ・葉上)、第10章 農業のダニ② (害になるダニ・土壌)、第11章 農業のダニ③ (防除に役立つダニ)、第12章 ダニとの共存、の全12章の構成である。

 目次だけからでも想像いただけるように、ダニ学とは、ダニを材料とした全学問分野であり、我国では日本ダニ学会の会員が中心となって研究活動を展開している。分子生物学・医学から分類学・農学・家政学まで、興味の対象が会員各自で全く異なり、会員相互のコミュニケーションは人間性でカバーしているものの、本当のところはよく判らない。分野の概要は想像できるが、“その分野で現在、何が面白くて、何が熱いのか、どのような事が判ってきたのか”、専門家各人の学会での発表を聞いていても、部分的な内容が中心で全体像がわからない。本書はそんな部分を一挙に全部判りやすく公開してもらったようなものである。

 ダニは昆虫とよく対比されるが、昆虫より数は多く分布域も格段に広い。吸血して病気を媒介することや、農業害虫として悪名高いダニもいるが、大部分は人に迷惑をかけない、体長が1mm以下と微小な、動く“粉”である。実物をみてダニと判る人は、少ないと思われる。“つつがなくお過ごしの・・・・”と奥ゆかしい日本語があるが、恙虫(ツツガムシ)に関連する言葉との理解は、ダニを扱って、初めて知ることとなった。近年、医学部では、寄生虫学の講座がなくなって久しく、恙虫病との診断ができなくて、最悪の結果となることもあるという。農業従事者の老齢化とともに、発生初期のハダニを認識できず、激甚な加害となって初めて気付くことも多いとされる。一方で益虫(生物農薬)としての利用も実用されている。私はコナダニを材料としてレモンの香りを見つけ天然物化学を展開してきた。この本で不思議な事に、コナダニを使って熟成されるレモン香の美味しいチーズが、フランス(=Mimolette)とドイツ(=Milbenkaese)にある事の記述がない。あまりにもカバーすべき分野が広く、ダニ全般をまとめる事の難しさの故と考えるが、この本をベースに物知りの段階から一層の飛躍として、ダニ研究の面白さを理解して欲しいと考える。さらに研究に進まれる人が輩出することを願っている。また図書館にも備えていただけることも、編・著者らに加えて願っている。

 本書は、ダニの分類学上の英語表記や、種名に学名が付記され、各巻末には引用論文のリストがあり、いつでもオリジナルが参照できるよう工夫されているとともに、研究論文の作成の際にも、ハンドブックとして役立つよう配慮されている。さらに巻末には付録としてダニ学の教科書・参考書・専門雑誌のリストが簡単な紹介とともにまとめられており、ダニ学研究を始めるうえで、参考になると考える。

(富山県立大学生物工学センター 桑原保正)