応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

新刊紹介 花壇・緑地草本植物の病害虫診断図鑑(第Ⅰ巻 病害編 第Ⅱ巻 害虫編)

(2023年5月 2日公開)

基本情報

書誌名:
花壇・緑地草本植物の病害虫診断図鑑(第Ⅰ巻 病害編 第Ⅱ巻 害虫編)
著者・編者:
堀江 博道・竹内 浩二・近岡 一郎 編著
出版日:
2023年4月21日
出版社:
大誠社
総ページ数:
898
ISBN:
978-4-86518-192-0
定価:
18,000円 (税別)

本書は,植物医科学叢書No. 7として企画・編集されました.植物医科学叢書シリーズは,植物の生育障害を総合的に診断し,植物の健康を護ることを目標に,専門性を維持しつつ,平易で簡潔な構成と内容にすることを基礎としています.既刊「花木・観賞緑化樹木の病害虫診断図鑑」(2020年刊行)の対として,本書は露地花壇や緑地の草花・球根・草本植物に発生する病害虫を対象としています.編者らは,東京都や神奈川県の農業試験場や病害虫防除所などで病害虫対策などに従事し,その間に観察した病害虫の発生や被害の記録を整理し,本書にまとめました.

本書は,花壇・緑地草本植物の生産者,それらを守り支援する樹木医,庭や公園などの造園・緑化管理者や,緑に親しむ愛好家に役立つよう企画され,4,500枚以上の画像が効果的に配置され,見て分かるように工夫されています.

害虫編は以下の構成となっています.

第1部 花壇・緑地の主な害虫 ~寄主・生態・形態・被害・対処~

第2部 ハーブ園の主な害虫 ~寄主・生態・形態・被害・対処~

第3部 菜園・食育学修圃の主な害虫 ~寄主・生態・形態・被害・対処~

第4部 花壇・菜園の土着天敵 ~アブラムシ・ハダニ類などの天敵~

第5部 草花・草本植物の害虫診断および対処方法のポイント

第1~3部では〈寄主〉〈生態・形態〉〈被害〉〈対処〉の項目を設け,花壇や緑地に植栽される草花・草本植物と菜園などに利用される約160種の植物に発生する200種以上の害虫を被害写真や各生育段階での診断に役立つ多数の写真とともに,診断や同定に必要な内容を簡略に記述してあります.また,トラフアザミウマやアメリカピンクノメイガ,アワダチソウグンバイなどの侵入害虫やクリバネアザミウマやクロウリハムシなど,花卉・草本類で近年発生が目立つ害虫など,類書にない新しい情報等も豊富に掲載しています.第4 部では,花壇・緑地草本植物等の植栽現場でよく見られる,捕食性および寄生性の有益な土着天敵40種以上の写真と解説を掲載しました.身近で見られる天敵を知ることで害虫防除の判断に役立ち,天敵を活用することにも繋がります.第5 部では,害虫診断とその防除対策の構築に不可欠な,害虫の種類と見分け方のポイント,発生生態と被害の特徴,対処法などの基礎的・応用的な知見について,編者らによる現地での実態把握と経験を踏まえつつ紹介しました.また,巻末には5種類の索引を付帯し,植物種ごとに発生する害虫を検索することも可能で,広食性害虫の寄主についても調べやすいよう工夫されています.

編者らの思いは,多くの人が多様な植物を健康に育て,私たちと共存できる植栽環境を育み,豊かな環境を維持していくことにあります.病害虫が発生したからといって,意味の無い植え替えや処分,一律に薬剤散布などを行うのではなく,日常管理を基礎として,病害虫が発生しても被害が生じない程度にコントロールすることが多様な生物と共存する豊かな環境の実現に繋がるものと考えています.本書が,身近な花壇・緑地草本植物の障害を正しく同定し,病害虫の生態を理解することによって,防除の必要性を自らが判断するための一助となることを願っています.

竹内 浩二 (紹介書籍編著者、元・東京都農林総合研究センター)