応動昆、持続可能な社会を目指して: 一般社団法人 日本応用動物昆虫学会

書評 農業昆虫学

(2024年1月16日公開)

基本情報

書誌名:
農業昆虫学
著者・編者:
藤崎憲治,石川幸男 編著
出版日:
2023年11月1日
出版社:
朝倉書店
総ページ数:
356
ISBN:
978-4-254-40577-4
定価:
7,150円(税込)

本書は,朝倉農学大系の1冊として刊行された.刊行の言葉には,「基礎から最先端の成果まで充実した内容を解説」とある.第1章の「序論」では,昆虫の起源,人間との関係を扱いスタートする.第2章では「農業昆虫の形態と分類」に43ページが割かれており,外部形態,内部形態が解説されている.この章で特徴的なのは,ダニ類の形態や分類が述べられていることだ.今まで刊行されてきた「応用昆虫学」では,ダニ類は扱われていなかったり,ほんの数ページの記述だったりしたが,ここでは19ページが割かれている.第3章では「農業害虫の基礎生態」について,100ページが割かれている.従来の教科書が,生態学に関しては10〜20ページであったのに比べると格段の詳しさである.休眠や相変異なども取り上げられ,個体群の密度推定,空間分布解析,成長モデルなど他の教科書では見られない数理モデルの解説も詳しい.また,末尾には新旧の参考文献も5ページにわたって記述されており,詳細な生態学の解説書となっている.第4章では,「農業昆虫と生態活性物質」について33ページが割かれている.今までの教科書が主として寄主選択について述べられた物が多かったように思うが,ここではそれ以外にもフェロモンやその他のアレロケミカル(他感物質)についての解説が詳しい.最近の話題である,三者系・情報ネットワーク,性フェロモン剤に対する抵抗性発達なども取り上げられている.第5章の「農業昆虫の生理」は基礎生態の前にあってもよいように思うが,皮膚,生体防御,変態,ホルモン,耐寒性などについて述べられている.性フェロモンの受信システムも生理学的観点からここで述べられている.第6章「農業昆虫のゲノムと遺伝子」に関しては,分野が新しいこともあり,31ページをかけて述べられており,ゲノム研究の応用についても最後に加えられている.第7章「農業害虫の管理」は,IPMによる害虫管理をメインのテーマにして,耕種的防除,生物的防除,物理的防除,などの解説がされて,最後にIPMの将来像についての記述で締めくくっている.第8章「農業昆虫の利用」は今までは資源昆虫利用として扱われていたものであるが,ポリネーター,ミツバチのCCD問題,養蚕業,昆虫食など昆虫資源の機能利用について広く述べられている.

全体として,300ページを超える大著となって,今までになく詳細で丁寧な解説がなされている.そのためか,図表はかなり縮小されており,表のフォントが太字になっていたり罫線が太かったり不鮮明なところがある。原図としてコピーして講義資料として用いるのには不向きなものがあるものの、昆虫学をこれから学ぼうとする学生諸氏,大学院生,また,新しい情報源として学び直しをしたい昆虫関連分野の専門家諸氏にもお勧めしたい一冊である.

戒能 洋一 (筑波大学生命環境系)