昆虫は、地球上のあらゆる環境に適応しもっとも繁栄している生物であり、彼らが進化の過程で獲得した形態や機能には大きな関心が寄せられている。それらを模倣し、技術開発やものづくりに活かすバイオミメティクスの展開の狭間で、昆虫学は他の学問分野との交流により人の生活に密接な科学の一つとなっている。私たちの身の回りには、既に様々な昆虫の機能が模倣された商品が流通し、ミツバチなどの益虫利用、外来生物法で規制された昆虫のもつリスクなど、“昆虫”についての話題が社会問題として取り上げられることも多く、昆虫学の基礎知識は、現代人の教養として備えておきたいものとなっている。このような背景にもかかわらず、昆虫という名称は誰もが知りながらも、その実態について把握している人は実は少ないといった偏った状況が続いており、その是正を助ける良書はほとんどなかった。
本書は、そのような時代の流れの中で社会のニーズに呼応する最適な内容で構成されている。手にとってパラパラとページをめくると、次々に美しい線画やカラー写真、イラストが目にとまる。それらの多くは著名な出版物や論文に用いられたものであるが、分かり易く改変された上に1冊の中で効果的に配列されており、優れたビジュアルテキストとして新鮮な息吹を発している。以下のように14章で構成され、昆虫の基礎から応用までが網羅されており、項目によって専門的かつ詳細な事項にまで言及されたものや簡潔な紹介にまとめられているものなど、意図的に内容に緩急が与えられているのも特徴となっている。
昆虫の基本的な体制や特殊な能力、私たちとの係わりなどを理解し、教養として備えていくためのテキストとして最適な一冊といえる。
- はじめに
- 第1章: 昆虫とは
- 第2章: 昆虫の体のつくり
- 第3章: 昆虫の行動と生殖
- 第4章: 昆虫の食性と植物との関係
- 第5章: 寄生
- 第6章: 水生昆虫
- 第7章: 海洋島や洞窟の昆虫
- 第8章: 擬態をする昆虫
- 第9章: 昆虫の飛翔
- 第10章: 社会性の昆虫
- 第11章: 益虫と害虫
- 第12章: 分子情報による系統推定と種の同定
- 第13章: 昆虫の希少種と外来種の問題
- 第14章: 昆虫の分類
- 項目索引
- 事項索引