- 出版: Apollo Books
- ISBN: 87-88757-41-2
- 2005年、定価960DKK(約17,000円)
ハマキガ科は鱗翅目昆虫の中でも大きなグループの一つで、農林業上重要な害虫が多く含まれている。しかし、世界的にはまだまだ未知の種も多く、日本からも毎年のように新種や未記録種が発表されている。本書はこのハマキガ科の現在までに全世界から記載された種名の総カタログで、なんと9,000種が収録されている。2004年12月31日までに記載された化石種を含め、亜種より下の名称や無効な名称、スペルミスなどが網羅されており、たいへん包括的な内容になっている。アメリカ農務省系統昆虫学研究室のJ. W. Brown氏が編纂の中心であるが、J. Baixeras、 R. L. Brown、 M. Horak、 E. H. Metzler、 J. Razowski、 K. R. Tuckの各氏、そして日本からは大阪芸術大学の駒井古実氏といった世界的なハマキガ科研究者が編纂に参加している。駒井氏からはGrapholitini族の全種に関して全て原記載をあたり、スペルや文献、ページ数、模式標本の所在といった基本情報をチェックし直し、日本産の種はタイプ産地などを全てチェックしたとお聞ききした。このような厖大で地道な仕事を比較的短時間に成し遂げられた研究者の多大な努力には敬意を表するしかない。
属や種の配列は亜科毎ではなく、先ずアルファベット順に属名を並べ、種名は属の下にアルファベット順に並んでいる。属名と種小名の結合は各研究者の現在の考えが反映されたものになっており、日本産の種の一部も属が変更されている。各属には原記載の文献、ページ、タイプ種、現在所属している亜科と族名が、各種には原記載の文献、ページ、原記載時の属名、タイプ産地、タイプ標本の所在地が記されている。また、現在有効な種名と亜種名は太字で、シノニム(同物異名)は細字になっているので、非常にわかりやすい。もちろん巻末には総索引がついているので、種名から現在の所属を探しやすくなっている。分類研究者にとどまらず、応用研究者にも現在研究している、あるいは問題になっている害虫の有効な名称を検索するのにたいへん有用であると考える。
本書は、世界の昆虫総目録シリーズの第5巻目として出版されたものである。今、欧米ではこのシリーズ本の出版に見られるように、昆虫学の基礎的なモノグラフなどが相次いで出版され、多くの分類学の新知見が盛り込まれ、分類体系もダイナミックに変更されてきている。このような基本的な研究や出版に力とお金をかける欧米先進国にはただただ脱帽するだけである。基礎研究なくして応用研究の発展はない。分類研究者が少なくなって(絶滅危惧種とも言われている)、誰が一番困るかといえば応用研究者である。分類研究が進んで、学名が変更されたり、以前は1種類だとされていた種が複数種に分割されたりすることは少なくない。分類学もダイナミックに動いている研究分野なのだ。研究している昆虫の種名が正確でないと、せっかく苦労して得たデータが無駄になり、研究者としての信用の失墜になりかねない。心ある研究者の間では、古くから基礎研究の重要性が指摘されているが、未だに基礎研究分野が軽く扱われている日本の現実を再認識させられた書である。
(大阪府立食とみどりの総合技術センター 那須義次)