菜園の害虫と被害写真集

  • 池田二三高
  • 自費出版
  • 2006年、268頁、定価8,400円(税込)

害虫を同定するための図鑑は既にいくつか出版されているが、もっと写真入りが欲しいと思っていた向きにはぴったりの本が出版された。著者の池田氏は長年静岡県で害虫防除に携わってきた研究者で、著者の長年の思いがこの本に込められているように感じた。

大学、農試などの害虫防除に従事している研究者は、いろいろな害虫被害の報告を受け、その虫の同定をよく頼まれる。なじみの害虫だと直ぐ分るが、初めての害虫だと図鑑等に頼らざるをえない。最近は、輸入害虫が多くなったせいか、あるいは温暖化のせいか、見知らぬ害虫も多いのである。しかし、この図鑑がもう一つで、役に立たないことがしばしばある。とういうのも、通常、写真が数枚で、それも、鮮明でないときも多いからである。いろいろな発育ステージ、アップの写真、引いた写真、いろいろな被害状況の写真があったらなあと思った経験がある人は多いにちがいない。そういった人たちの思いを汲んでくれるのが、正にこの本ではなかろうか。やはり、こういった本は、同じ問題を経験した現場の人からでないと出てこない。

この本は、菜園の害虫129種の非常に詳しい写真集である。ダニ、トビムシ、バッタ、アザミウマ、カメムシ、チョウ、コウチュウ、ハチ、ハエ目の主要害虫が掲載されている。1種について、通常7~8枚、最低でも6枚の写真が示されている。卵(植物内の卵は除く)、主要幼虫齢、蛹、成虫、被害状況と非常に鮮明な写真が示されている。紛らわしい種の場合、例えば、ミナミキイロアザミウマでは、実に、20枚の写真が載せられている。その中には、メス成虫の頭胸部の拡大写真があり、この種を同定するのに必要な剛毛の位置が明瞭に示されている。被害状況も、ナス、メロン、スイカ、キュウリ、ジャガイモ、ピーマン、ナスについての写真が載っている。また、成虫、1、2齢幼虫はもちろん、1、2齢蛹まで載っていて、本当に痒いところに手が届く充実ぶりである。

各種の説明は、「形態および生態」、「被害のようす」、「その他」の項目に分けられ、非常に要領がよい。そして、現場の人が知りたいことがちゃんと書かれてある。著者の長年の観察記録ノートの集大成がここに開花しているようである。最近の外来種アワダチソウグンバイの「被害のようす」から抜粋すると、「サツマイモでは、葉裏から吸汁するので吸汁された部分は葉表に小白斑が生じる。次第に増加して葉の半数以上が白くなり、局部的には枯れたり穴あきとなる。葉裏にはグンバイムシ特有の黒い虫糞が点々と発生し葉裏は汚れるが、ススは発生しない。」いや、よく観察している。

ただ一つ欲を言えば、索引に被害植物ごとの害虫リストが欲しかった。あれば害虫診断にとって、もう鬼に金棒といったところだが、それは、他の図鑑で間に合わせることにしよう。とにかく、農業試験場、防除所、農家の人たちにとって、本当に役立つこと間違いない。池田氏に感謝したくなる本である。

(三重大学 山田佳廣)

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