新刊紹介「応用昆虫学」

本書は伝統ある朝倉書店刊の応用昆虫学シリーズの最新版である.初版の「応用昆虫学」は1953年(昭和28年)に安松京三・山崎輝男・内田俊郎・野村健一博士の共著により刊行され,永年に渡り大学で教科書・参考書として利用されてきた.筆者も今から約40年前の学部生時代に三訂版のお世話になった.応動昆のオールド会員の方でこの本を知らない人はほとんどいないだろう.

その後,本シリーズは,1986年と2011年に二度大きく改訂され,「新応用昆虫学」,「最新応用昆虫学」と名前を変えて出版されている.本作は約10年ぶりの大幅改訂であり,書名も原点回帰して「応用昆虫学」となった.

本書は,以下の章と項目から構成されている.

  • 1.序論 昆虫と人間/昆虫学に関わる諸分野
  • 2.基礎昆虫学 昆虫という生物/昆虫の分類/昆虫の形態と生理/昆虫の生態
  • 3.応用昆虫学 昆虫の害虫化/害虫防除の歴史と総合的害虫管理/発生予察・被害解析/化学防除/生物的防除/物理的防除/耕種的防除/自滅的防除,遺伝的防除
  • 4.各論 農業害虫/家屋害虫/衛生害虫/有用昆虫

構成的にも前作よりも初版に近い形に戻っているが,ページ数は,初版(三訂版)の363頁から197頁とほぼ半分になり,装丁もハードカバーからソフトカバーになり,大変スリムになっている.

編者らも序で述べているように,応用昆虫学は,基礎から応用分野まで非常に広範な内容を含んだ学問分野で,また近年研究が急速に進展し,各分野が著しく深化・細分化している中で,もはや一冊の教科書ですべての分野をカバーするのは不可能な状況にある.そこで,本書は応用昆虫学の根幹に関わる分野に絞って掘り下げるという方針をとっている.その結果,農業害虫の防除について詳しく説明されている一方,前作にあった,ゲノムと遺伝子・昆虫の利用・昆虫と社会などの章や項目は大幅に割愛された.

各項目の執筆には,大学の教員だけでなく,害虫防除の第一線で活躍されている研究者が携わっており,随所に最新の研究知見が盛り込まれている.また,限られた紙面の中で重要な情報をわかりやすく伝えようとする熱意と工夫が感じられる.例として,以下のような点が挙げられる.

第2章の基礎昆虫学の昆虫の分類の項は,前作では文章による説明のみであったが,本書では各目昆虫のイラストがつけられ,イメージがしやすくなっている.

第3章の応用昆虫学では,総合的害虫管理技術のうち,生物的防除では保全的生物的防除,物理的防除では光や色による防除法など,最新の研究知見が盛り込まれている.また,化学的防除では,殺虫剤の種類を作用機構(IRACコード)に基づいて紹介している.発生予察・被害解析の項の内容はやや難解であるが,補足説明と関連のRサンプルコードが朝倉書店のWebサイトに置いてあり(害虫密度の推定法.htmlなど),それらを参照利用することでより理解しやすくしている.

第4章の各論では,3200種もいるとされる農業害虫の中から,現在特に問題となっている主要な害虫をバランスよくセレクトして紹介している.イネ,野菜類,果樹害虫については頁数を大きく取る一方,家屋害虫,衛生害虫,有用昆虫(天敵を除く)は各1頁のみと,しっかりメリハリがついている.また,モノクロではあるがわかりやすい害虫の写真を多用している点もポイントが高い.

一言で言えば,本書は応用昆虫学のエッセンスをギュッと詰め込んだ極上の教科書として仕上がっており,大学で初めて応用昆虫学を学習する学生に最適である.今後も応用昆虫学の教科書のスタンダードとして末長く使われ続けていくものと確信する.執筆者のご努力に敬意を表したい.また,公務員試験や技術士試験などの勉強をする際にも大いに役立つ内容になっている.大学の学生・教員のみならず,害虫防除の現場で活躍されている方々にも,最近の応用昆虫学の概要を手軽に理解するためのガイドブックとして手元に一冊置いておくことをお勧めする.